2020.10.11更新
悲観論で成立する治療ビジネス
先日医療の現場ではとりあえず悲観的な説明をしがちだと言う話をしました。医療者としては後に医療過誤との非難を受けぬよう、想定される最悪の事態に関しては、予めご承知おきいただきたいという事情はご理解いただけると思います。
それとは別に私が問題だと思うのは、悲観論をかざして人の弱みにつけ込む治療にかこつけたビジネスです。
それは高額な民間療法や自費診療がしばしば問題になるがん治療、アトピー治療、やけど治療などで特に顕著です。
結論から言うとこれらの大きな問題点は、うまくいけば自分のおかげ、もし結果が悪くても自分の治療でここまでの状態にできた、保険診療ではここまで出来なかったという理屈が成立してしまうということです。一人の患者さんの治療経過については、いくつか選択肢のある治療法の優劣を、全く同じ時系列で直接的に比較することができないからです。
得意分野のやけど治療を例に話を進めます。当方は元々小児外科医で、小児の患者さんが大半なのですが、やけどをさせてしまった親御さんは罪悪感に苛まれ、なんとしても跡形もなく治したいという気持ちになります。受傷当日は地元の救急病院で治療を受けますが、帰宅後に深夜までネットで調べまくり、宣伝上手な自費診療のやけど治療院を運悪くみつけてしまいます。
保険診療の病院も目には入りますが、この時の心理はお金はいくらかかってもいいから「有名な先生」の治療を受けるということに傾いているので、翌日とりあえずそちらを受診すると、「これはひどい!うちの治療を受けないと醜い痕が残る!!」と悲観的な見通しを告げられ、きれいに治すには一回数千円の軟膏処置に絶対毎日通院が必要と言われます(何故か日曜日は自宅処置でOK)。ここで通院治療を続ければ綺麗に治る、途中でやめたら無駄になると思い込んだら通院はやめられません。遠方だと治療費だけでなく交通費も馬鹿にならず、子育て世代の若い親御さんが月に10万円を優に超える出費を強いられます。その出費に耐えられず、泣く泣くそちらの治療を断念し、保険診療の当院を訪れるという方が年に数人おられます。
その時の親御さんは、お金が無くて最高の治療を受けさせてやれなくなったという心理でとてもしょんぼりしています。時々受傷時の写真を撮っている方がいて、見せてもらうと明らかに軽症で、これで毎日通院して高額な治療費を取られたのかと気の毒になり、最初からこちらに診せてくれればよかったのにと思うこともありますが、スタート地点が違い実際にはこちらは途中の状態からしか断定的なことが言えないのが歯がゆいところです。それを盾に自費治療院は、最初に悲観的な見立てをして、きれいに治れば自分のおかげとして名声を得て、多少痕が残っても自分だからここまでにしてあげられたという理屈で非難を避け荒稼ぎできるわけです。
厄介なのは、実際には誰がどうやっても治るような軽症の患者さんが大勢受診して「○○先生のおかげでとてもきれいに治った」とネットに書き込み、そこの評判を上げてしまうことです。ネットの大きな落とし穴であり罪であるとも言えますが、私が実践している「なつい式湿潤療法®」もネットで広がり根付いてきている経緯があるのでジレンマを感じてしまいます。
自費診療の中には、実際に有効でも保険診療は認可されていないというものもあり得ます。事前に怪しい治療かそうでないかを完全に見分ける方法はありませんが、もし本当に優れた治療であれば医療業界全体が注目し、大勢の医師が師事を仰ぎ拡散し、全国的なスタンダードになっているはずです。長い間小規模で独自の秘伝の薬で閉鎖的な治療をして、高額な治療費を取るところはかなり怪しいと思わざるを得ません。
やけどに限らず、高額な民間療法・自費診療が選択肢にある場合は、まず先に保険診療で認められている範囲の治療法の中で、ネットで評判の良い医療機関を探すのが賢い選択だと思います。
曹洞宗の僧侶である私の兄は、典型的な悪徳宗教の手口に似ていると言っておりました。ご注意下さい。
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