2020.10.10更新
やけど治療の見通しに関する医師の説明
医師は大抵病気やケガの見通しに関して、まず想定される悪い方のことから説明します。いまどきは、治療経過が好ましくない場合に、医療者側の落ち度でなくても医療過誤を疑われかねないご時世なので、多少防衛的になるのは仕方ない面もありますが、問題はその「程度」です。
やけどの治療の際に、私も初対面の患者さんには最初からあまり楽観的なことは言いません。それには上記の理由の他に、やけどは数日経過を観ないと本当の深さが分からないということもあるからです。再診のときには患者さんの性格も少しは把握できていますし、やけどの程度も判定できますから、徐々にこれは軽いやけどみたいだねとか傷跡は残らないんじゃないかなとか明るい見通しをお話できるようになります。ところがやけどや外傷の治療で当院に来られる方の中には、最初の医療機関で受傷直後から、これは深いから絶対に傷跡が残るとか、皮膚移植しないと治らないと言われ、かなり落ち込んでいる方が少なくありません。
私は2002年の開業当初より夏井睦先生の提唱する「湿潤療法」を実践して18年になりますが、他の医療機関で皮膚移植が必要と言われた数十例のケースのほとんどは手術せずに治すことができ、実際に結果的に手術を要した症例はほんのわずかです。結果的にと書いたのは、一度皮膚が再生する状態(上皮化と言います)までは全例で達成でき、その後に傷痕のつっぱり(瘢痕拘縮)のために手術を要した数例を経験しただけだからです。ですから、受傷直後の初期の段階で皮膚移植をしなければ絶対治らないという言葉は、医師患者間のトラブル回避のための防衛的な意味でやむを得ないレベルを逸脱していると思います。なぜこのような説明になるか、考えられる理由は二つあります。
①本気でそう信じている。
これは湿潤療法以前の従来の治療しか経験が無く、教科書に載っている~度だったら植皮の適応というような知識に縛られているが故の発言です。受傷直後に熱傷深度を断言してしまったり、医療知識のアップデートを怠っている罪はありますが、悪意のあるものではないと言えます。
②皮膚移植を受け入れさせるための方便
邪推であればよいのですが、皮膚移植は高額で収益性が高い手術です。利益を優先するバイアスがかかると多少強引にでも手術につなげるために、早い段階から患者さんに刷り込み、受容させるための強めの説明になるということもあるかもしれません。
いずれにしても皮膚移植の痕はきれいなものではなく、正常部の皮膚にも傷をつけることになりますから、しないで済むに越したことはありません。私は、広範囲でなければ受傷直後から皮膚移植の判断をする必要はないものと考えています。そのような状況が生じたら全国の湿潤療法を実践している医師にご相談下さい。
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